群青の空を越えて

エロゲ。18禁。ネタバレあり。







   この先20,000ft
      ↓







紙一重な学者がブチ上げた「円経済圏構想」に学生たちが共鳴し、関東独立を謳って内戦状態に陥った日本。敗戦色濃厚な関東軍の航空団で戦闘機パイロットの養成課程に所属する主人公は、契機となった理論を提唱して暗殺された父親と、操縦席から見る戦争の実態に翻弄されながら自分の進むべき道を探す。
 
気分転換にえろげなど、と思った俺が甘かった。
これはエロゲじゃない。エロいけど。
歪みきった理想を護るために負け戦を承知で空を駆ける者たちの軌跡だ。
戦場ロマンなんて犬に食わせろと言わんばかりの演出。リアルに徹した描写。ヒロイズムなんて欠片も無い。それまで陽気に喋ってた奴も1クリック後には物言わぬ姿になってたりする。おばかなゲームばっか作ってたlightがいったいどうしちゃったんだ? まあ常にスキマを衝く会社らしいといえばらしい。
 
公式のこれを読んでおかないと円経済圏理論を始めとする舞台背景がまるっきりのトンデモ話になっちゃうので先に読んでおこう。それでもやっぱり無茶な理屈ではあるが、歴史改変ポイントを1900年代以降に求めがちな凡百の仮想戦記より壮大なスケールであり、一見の価値あり。
メインヒロイン3人の話はどれもグッド。最もハッピーエンドに近い美樹教官。エーリッヒ・ハルトマンばりの黄色いハンカチな若菜。健気すぎてもはやヒロインと化した相棒トシが光る最鬱ルート、加奈子。これだけで払った代金の価値はあった。
システムの根幹は昔から変わってないみたい。かなりリファインされてて普通に使える。相変わらずサウンドノベルツクールがわりになるツールがオマケについてるが、結構めんどい。手打ちじゃいじる気にならん。
 
まずい点。
・全ルートをクリアした後に出るグランドルートは、ラストが正直納得いかない。関係者集合の場面で一度語ってるし言葉にすると陳腐になるとはいえ、幻想の紡ぎ手として自ら発した問いにはきちんと答えを出すべきだ。
・夕紀ルートと圭子ルートは尻切れ気味。この2つはもう少し突っ込んだ終わり方をしてほしかった。
・絵のセンスがちょっとアレかも。ずっと見てるとなかなか味があるんだけど、間違っても売れ線とは言い難い。
グリペンを持ち出しておいて筑波で一極集中運用ってどうなの? わざわざ成田や百里の傍に基地つくるのも変だし。F2の出番おおくて最新鋭扱いされてる割に描写少ないのが寂しい。
・ルートごとに政治情勢が全然違うのはいかがなものかと。
・日本という国の成立が現実とかなり異なるんなら、現実の歴史をトレースすることもないような気も。明治維新関連イベントを起こしておいて、天皇制についてほとんど言及されてないのも不自然。触れてはまずいネタではあるけどね。海外のほうも、台湾はともかく中国と半島の扱いが楽観的すぎじゃないかなあ。
 
なんだかんだ言いつつも、政治経済軍事に大きく踏み込んだストーリーをきちんと完結させてるのは賞賛されてしかるべきだと思う。戦艦が主砲ぶっぱなして活躍すりゃ何でもいいだろ的な火葬戦記を買うくらいならこっちをプレイしよう。負け戦萌えの人にはぜひお勧め。